三員環歪み利用して N-アミノ化

N-Silyloxaziridines : Synthesis and Use for Electrophilic Amination
J. Org.Chem. ASAP

  • 要約


 N-シリルオキサジリジンを求電子的アミノ化剤として用いてヒドラジン誘導体を合成する,という論文.N-置換オキサジリジン類はかつてから合成化学に利用されてきたけれど,N-シリルになったやつは業界初のお目見え.オキサジリジン類は基本的に求電子剤として働く.N上の置換基によって異なる反応になり,酸素原子上で反応するケースと窒素原子上で反応するケースに大別される.ほとんどのケースでは酸素側だが,今回はめずらしく窒素側で反応するようだ.マイノリティ万歳.
 本論文の実施例では,反応の相手は第一アミン,第二アミン,第二アミドが用いられており,対応するヒドラジン誘導体を合成している.この他,低収率ながらメルカプタンとも反応してN-S結合生成を行いスルフェナミドを合成することもできるようだ.一方,スチルベンやマレイン酸エステルを反応させてN-C結合生成も試みているが,これはうまくいってない.なお,オキサジリジン側のArには電子吸引基がついている方が調子が良い模様(4-ニトロフェニル>フェニル).
 反応機構は次の通り.オキサジリジンに対するアミンの求核攻撃がfirst step.その後N-O結合を切断するように開環し,塩基性条件下でのピーターソン反応のような電子移動を経て,目的とするヒドラゾン誘導体が得られる.この機構はオキサジリジンのNがウレタン保護された基質を用いるケースとは全く異なるようだ.ちなみにウレタン保護では,アミンの求核攻撃の後に三員環がアルデヒドヒドラジン誘導体に分解する段階を経る.これらが互いに反応してヒドラジン誘導体が得られるとされている.β位に酸素ファンクションを持つケイ素は面白いね.

  • 所感

 ヒドラジン誘導体は複素環を作るには欠かせない存在だ.インドールになるし,ピラゾールもいけるし,ピリダジンもいけるし,ピロールだって作れる.このような重要性にも関わらず,売っているヒドラジン誘導体は少ない.この論文はその手助けになってくれるかもな.ただ実際の現場を考えた時,必要となるのはもっぱらRNHNH2という形の一置換ヒドラジンであろう.今回得られるのはあくまでヒドラゾン.利用するにはヒドラゾンの加水分解がうまくいくかどうかにかかっているな.そういう意味では,最近報告されたT. Baburaja, S. Thambidurai, Synlett, 2011, 1993-1996. の方が馴染みやすいかもしない.あるいは,カップリングでN-置換ヒドラジン作るっていう手もある.またあるいは,一度N-無置換の複素環を構築しておき,あとでカップリングorアルキル化するっていう手もあるよね.うーんこの論文は,オキサジリジンの窒素原子上で反応が行くという点と,ピーターソン反応様の反応機構,というところは非常に興味深いのだけれども,ヒドラジン合成としての利用価値は微妙かな.
 それならばオレフィンとは反応しないっていうほどのマイルドな反応性を逆に活かして,アミンスカベンジャーとして利用するのはどうだろうか.中性条件下にアセニト中,混ぜるだで進行するという点は大きなアドバンテージだ.副生するのも,シラノールだから悪さしないし,除きやすいよね.それと,カルバニオンを反応させて欲しかった.うまくやってN-C結合作ってイミンが得られれば,加水分解でアミンが取れる.マロネートからアミノ酸合成とかね.