芳香環のモノフルオロメチル化

Copper-Mediated Fluoroalkylation of Aryl Iodides Enables Facile Access to Diverse Fluorinated Compounds: The Important Role of the (2-Pyridyl)sulfonyl Group
Org. Lett.

  • 要約


 (2-ピリジル)スルホニル基を隣接基に持つフルオロメタンからCu試薬を調製し,芳香族ヨージドとのクロスカップリングにより対応するモノフルオロメチルアレーンを合成する,という論文.これまでCuを使ったクロスカップリングで方向環をCF3化,CHF2化したってのは良く知られているけれど,CH2F化は殆どなかった.対応するCu試薬が不安定であるためと考えられている.今回,隣接基に(2-ピリジル)スルホニル基を導入することにより,調製したCu試薬の安定性,反応性が向上し,広範な基質においてモノフルオロメチル化(Bu3SnH処理後)を達成している.尚,Cu試薬はスルホンのα位にNISヨウ素を導入後,Znを挿入しCuIトランスメタル化して調製する.CuIは触媒量でも可.隣接基のArはピリジル基の他に,BTやTBTも試みているがイマイチのようだ.
 広範な基質で使用可能だ.電子の押し・引き,複素環にかかわらず,あらゆるシーンで中程度の収率を叩き出せる模様.スルホンの魅力を最大限に発揮してJulia Kochienski反応に展開しているケースなどもあり実用的な反応だ.

  • 所感

 CF3化についてはわんさか反応が知られているけれど,CH2F化はなかなか見かけなかったな.数少ない合成法しかない土壌で選択肢が増えたことは無上の喜びである.まあこれならアルコールからつくることもできるけどね.
 ただ,基本的にF基を入れるのは非常にコストがかかる作業だ.また,F化試薬は腐食性が高くて特殊反応釜を使用しなければならいことが多く外注に頼りがちになり外注先をコントロールしていくのに苦労する.その上,最近はGTI(遺伝毒性不純物Genotoxic Impurity)の問題がある.APIにおいてppmオーダーでの厳密な含有量のコントロールをしなけりゃならない不純物だ.F試薬にはほぼ必ずといっていい程対応するCl試薬が含まれているので,微量とはいえ基質にCl原子が導入されてしまう.芳香族ならばさほど問題にならないかもしれないが,脂肪族のCl体はいわばアルキル化剤なのでAmesポジのリスクは格段に上がる.これがポジになれば晴れてGTIに認定され厳格なコントロールを余儀なくされる.コスト面から考えるとF化工程を合成スキームの終盤に持ってきたいところだが,F化物とCl化物を効率良く分離するのは容易ではない.そう考えると前半に持ってきたい.でもコストは跳ね上がる.シーソーゲームである.まだ日本ではGTIについてのガイドラインははっきりしていない.でも近い将来,GTIは必ずつきまとうことになるだろう.不斉の化合物を取り扱うよりも大きな労力を要するように思う.それでも尚フッ素を入れたほうが魅力的なキャラクターなのかどうか .フッ素デザインは慎重に行っていきたい.